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Women's Global Economy Conference 日中韓女性経済会議
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06年開催講演録他
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第2部 ディスカッション
テーマ4<人材活用・育成>
『日中韓の経済の新たな展開 —女性企業人が果たす役割』

●モデレーター:名取はにわ 氏(早稲田大学 客員教授、前内閣府 男女共同参画局 局長)
●日本:岩田喜美枝 氏(株式会社資生堂 取締役執行役員)
●韓国:申 受娟 氏(大韓民国 対外経済・通商大使、韓国女性経済人協会 名誉会長)
●中国:熊 蕾 氏(首都女性ジャーナリスト協会 副会長)
●質疑応答
●最後に


■日本(モデレーター)名取はにわ 氏
(早稲田大学 客員教授、前内閣府 男女共同参画局 局長)

午前中の基調講演を受けて、このセッションではモデレーターをさせていただきます。
 日本では、女性たちが活躍するには、お手本となるモデルが必要であると言われておりますが、このロールモデルがなかなか身近にないということが悩みの種です。
 今回のパネリストの皆様は、いずれも日中韓を代表する女性の企業家でいらっしゃいます。

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■日本 岩田喜美枝 氏(株式会社資生堂 取締役執行役員)
『日本女性が社会の活力源になるために』

私は32年間、労働省に籍を置き、男女雇用機会均等法や育児介護休業法、次世代育成支援対策推進法といった働く女性 応援する法律の制定、改訂、施行に携わりました。3年ほど前に資生堂に入社し、CSRや人事戦略の観点から男女共同参画を推進しております。

約20年前、日本では男女雇用機会均等法が制定されました。それまでは大卒者募集のとき「男子に限る」という条件を出すのも当たり前のように行われていました。結婚退職や男女別定年を制度にしている企業もありました。男女雇用機会均等法が施行されると、男女別雇用管理が総合職、一般職というコース別雇用管理のスタイルに変化しました。そして徐々に女性が総合職として採用され活躍するようになりました。しかしコース別雇用管理も女性に本当に活躍してもらうためには問題が多いと気づいた企業は、コース別雇用管理を廃止しはじめています。集団管理から社員一人ひとりに注目し、いかに育成していくかという方向に変わってきているのです。20年間の様変わりで、子どものいない女性はほとんどハンディなく、男性と同じように働けるようになってきたと思います。

それでは、他国と比べて日本はどうか。これには2つの大きな特徴があります。1つは出産や育児で仕事を辞める女性が依然として多いということ。政府の統計によりますと出産を控えた女性の7割は仕事を辞めてしまいます。数年間育児に専念して再就職するというパターンが多く、これだと職業上の大きな中断ができてしまう。こういう国はおそらく韓国と日本だけです。それからもう1つは、管理職に占める女性の割合が非常に低いということ。資生堂も海外の現地法人では管理職の55%は女性。国内は13%。役員はもっと少ない。日本で最も女性が活躍している企業でもこのような状況です。日本の女性は管理職としての適性がないのでしょうか。そんなことは決してありません。最大の問題は出産育児の際に仕事を辞めてしまう方が圧倒的に多く、数年後に再就職するときには正社員としての道がなく、ほとんどがパートタイマーや派遣社員などの非正規雇用で再就職することにあります。

それでは日本の社会の課題は何か。2つあります。 1つは育児期も仕事が継続できる社会にすること。多くの企業が育児休 職、短時間勤務という制度を整備しています。国や地方自治体も保育所や学童保育の整備を急ピッチで進めています。しかし子どもが小学校に上がったからといって育児が終わるわけではありません。私も2人の娘を育てましたが、子どものために時間を使いたいと、ずっと思い続けていました。子ども1人について高校卒業までの18年間。2人で20数年間、子どものために時間を使いたい、と思う生活が続くのです。仕事を続け、キャリアアップしてもらうためには、幼児期だけの両立支援では足りないと思います。

そこで求められるのがワークライフバランス。仕事と仕事以外の生活が、両方充実する働き方の実現です。なにも育児や介護などの家族責任だけではなく、生涯学習、趣味や社会貢献活動といった自分の人生にとって大事なものに時間を充てることができる働き方を実現するということです。そのために正社員の長時間労働をいかに削減するかということを、大きな課題として抱えているのです。

もう1つは、男性が育児や家事にほとんど参画できていないことです。ある意味では、男性も気の毒な状況です。小さな子どもを持つ若い父親を対象にした調査で、「仕事と家庭生活との調和をどう考えるか」という質問に対し、育児や家庭のことは妻にまかせたいと考えるお父さんは3割に過ぎません。ところが長時間労働で家族のための時間がとれないという状況なのです。

2004年度に私は資生堂で「男女共同参画行動計画Action20」を策定しました。女性のリーダーをいかに早く育成するか、全社員を対象としたワークライフバランスをいかに実現するかなど、20項目の新しい試みを実現しようという行動計画を作ったのです。そのとき社内には「今さらなぜ?」という声が多かったんです。資生堂は均等推進企業として厚生労働大臣優良賞という名誉な賞をいただいていて、「もういいんじゃないの?」という空気があったのです。そこで私は社内で3つの話をしました。

まず、何より優秀な人材を確保するために必要だということ。資生堂のお客様の9割以上は女性。私は、資生堂を日本の、世界の女性たちに新しいライフスタイルや価値観を提案できるような企業にしたいと思っています。そのためにも優秀な女性にもっと活躍してもらいたい。毎年何万人という学生の応募があります。学生たちは、自分の好きな仕事ができてキャリアがアップできるかどうかと、そしてもう1つ、ワークライフバランスの実現を目指している。ワークライフバランスは今や、優秀な人材を確保するために、とても重要な条件になってきています。

2番めは人材の有効活用です。資生堂の社員の7割は女性です。採用して大事に育てた社員が、出産育児のために辞めるなどということになれば、教育投資の無駄になってしまう。そういった人材の有効活用といった面からも、ワークライフバランスの実現というのは大事であると思っております。

そして最後に強調したいのが、男女共同参画を進めたり、ダイバシティマネジメントをするということが、企業成長の源泉になるということ。飽和状態にある、競争環境の厳しい市場で勝ち抜くためには、新しい価値をいかに市場に提供できるかが決め手。その新しい価値は社員の多様性から生まれてくると思っています。社員が属性において、生活においていかに多様であるか。仕事以外の生活もしっかりできるような働き方ができれば、会社の外でさまざまな人的ネットワークができたり、情報が得られたり、価値観を学んだりするわけです。そういう人たちが集まって、社会の風がどんどん会社の中に入ってくれば、それが新たな価値を生むきっかけになるのではないでしょうか。ワークライフバランスというのは一人ひとりの個人の幸せにとって大事というだけではなく、企業が成長するための源泉にもなるのです。

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■韓国 申 受娟 氏
(大韓民国 対外経済・通商大使、韓国女性経済人協会 名誉会長)(事務局責任編集)
『男女平等感をパラレルにするために必要なものは』

私は30年間、企業家として活動してきました。35歳のときに4人目の子どもを産み、その次の年には夫を説得して37歳で仕事に復帰しました。十分でも不足でもなく家族の面倒をみることができ、誠意をもって子どもを育てることもでき、そして私が所属している韓国の女性社会のリーダーとして最善を尽くせた、まずまず成功した人生だったと自負しております。

今日は、最近のエピソードを紹介しましょう。自分は幸せだと考え、妻も幸せであろうと思ってきたある企業の会長の奥様が、突然うつ病にかかってしまいました。奥様は47歳、会長は51歳。家もあるし車もある。子どもも立派に成長し、何も問題がないはずなので、会長はそのわけがわかりませんでした。ある日、私をみたその会長は「申会長があんなに堂々としていて、元気なのは外で働いているからだ」と考えたそうです。息子と娘が成長し、妻は夫の帰りを待つだけの生活になってしまったということに思い至ったわけです。そこで、会長は奥様に会社の幹事役のポストを任せました。3ヵ月のトレーニングで奥様は意欲的に仕事に携わるようになったそうです。

中国では「国の半分は女性が支えている」といわれ、女性が外で働くことが社会で根づいています。一方、教育や育児、介護といった問題を抱え、女性が社会で活躍するのに多くの課題を抱えているのが日本です。しかし、経済大国でありながら倹約、勤勉精神、献身精神でもっとも豊かな生活を送っているのも日本の女性です。そして、パワフルな女性支援制度と女性の活躍で、女性の社会的進出が増えているのが韓国です。果たしてこの3カ国の女性は、自分が幸せと感じているでしょうか。もしも幸せと感じていないなら、なぜなのでしょうか。

マスターインターナショナルが発表した2003年3月の「アジア15カ国の女性の両性平等指数」を見ると、国の経済指数と幸福感は無関係ということがわかりました。この統計の基準は、まず第1に男女の学歴。2番めは経済参加、3番めは経済活動に参加しているのであれば、管理職かどうか。4番めは収入です。この統計のアジア15カ国の両性平等指数、つまり「男女が平等だと思っている」という女性は平均65.7%。もっとも低い数値だったのが韓国で45%、次いでインドネシアの47%、日本は50%弱で3番目に低い数値でした。一方、最も数値が高かったのは92.3%のタイ。2位はマレーシアでした。

なぜこのような結果が出たのでしょうか。女性が自分の人生を幸せであると感じるならば両性平等指数は高くなり、男女が円満であると社会が認めたときに、家庭と社会、さらに国は幸せであるはずです。ほかの理由は必要ありません。いくら豊かであっても女性が不平等や不幸を感じているならば、その国は幸せではないということです。そして、女性が幸せであると感じることができれば、生産性、効率性が拡大し、経済力はアップして、活気のある国となるわけです。高度な産業化、物質文明、機械化された便利な生活で時間があまり、余裕が出てくると、人は「パンだけでは生きられない」と欲求不満になってきます。ある程度満たされた環境になると、今度は不平等を感じたり、自分の存在価値を考えたり、認められたいとか、達成感を得たいという感情が生まれてくるのです。 綺麗な服を着せて、美味しいものをごちそうするだけでは女性を満足させることができない、ということをフランスの男性はいちはやく覚りました。1992年、国会議員の議員数を男女同数にしようと提案したのがフランスです。賢い人たちです。彼らは女性の幸せになってこそ、家庭と社会が安定し、国が競争力を持ち、国が健全になることを覚ったのです女性の幸福指数が高まると、男性の幸福と健康指数も上昇するのです。

韓国の女性の多くは人生の第二幕に向けた準備に余念がありません。全国の女性会館、女性マンパワー開発センター、大学の生涯教育プログラム、さらに、デパートの文化センターなどの前には、自分の適正を求める女性たちが列をなします。しかし、2005年、韓国女性の経済活動の参加率は53.9%。経済開発協力機構、OECD加盟国の60.1%とは大きな開きがあります。

この背景には高学歴女性の雇用環境の問題があります。労働力の不足を解消し、国の競争力を維持するための最大の資源が高学歴の女性のはずですが、女性は雑用や臨時職、非正規職にとどまり、正統な雇用を生み出すしっかりとした職場はあまりありません。高学歴の女性の適正に見合った職種を確保することは容易ではありません。資格や職業訓練などで、職場の生活の困難さを打開する方法を考え、性差別をなくし、子育ての問題を解決するような国にならなければなりません。これまでイニシアチブをとっていた男性がリードし、女性の職場創出を推し進めなければいけません。

息子が生まれた瞬間から「あなたは我が家の跡継ぎだ、財産だ」「あなたが成功すれば私は死んでもいい」といいながら、生きてきた母親たち。その社会背景を宿命的に受け入れ、生存競争のなかを生きてきた男性たち。両性平等指数を水平にするには、どうすればよいのでしょう。男性のコートを脱がせるためには、心を開かせるためには、大風で吹き飛ばすような方法では難しい。愛で包み、真心と涙で理解し、包み込まなければいけません。彼らは孤独です。私たちが空気の有り難さに気づかぬように、彼らは重要なことを忘れて暮らしていたのです。男性は女性がパンだけでは幸せにはならないということに、はやく気がつかねばなりせん。

新たな歴史に向かって共に悩み、美しく創造していくときです。我々女性の力、美しさで進んでいこうではありませんか。

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■中国 熊 蕾 氏 (首都女性ジャーナリスト協会 副会長)(事務局責任編集)
『中国女性の社会進出に関するメディアの役割 』

私はメディアで仕事をしておりますので、その立場から、女性が経済や社会の発展のために、いかに役割を果たしていくかということについてお話をしたいと思います。

2003年、中国最大の中央テレビ局、CCTVで年度経済人のベスト10を選びました。そして初めて女性の農民の方が選ばれました。 2003年10月、温家宝首相がその人の住む村に視察に訪れました。その際、彼女は果敢にも県に出稼ぎにいっている夫の給料が未払いになって困っていると直訴しました。未払い額は2300元。農家の1年分の収入に値します。この話は中央の指導者に伝わり、メディアで農民労働者の給料未払いの問題を解決する一つのきっかけになりました。中国では農村から都市に出稼ぎに行く農民が1億3千万人いるといわれています。農民労働者の処遇に関してはまだ まだ問題も多いのですが、この件をきっかけに改善がみられるようになりました。きっかけは1人の女性の勇気ある行動だったのです。 同じく2002年の経済人に選ばれた女性は、ある企業の経理について、財務諸表上は営業収入4億6千万元から18億元に延びているけれども、実際には財務状況が悪していることを暴露しました。中国の経済環境をクリーンにしたということで選ばれました。

また2002年4月、中国の国務院が江蘇省にある鉄鋼会社の違反建築を摘発しました。数百億元にものぼる規模のプロジェクトにおける違反をいち早く発見し、伝えたのは新華社通信の若い女性記者でした。この記者は長年にわたって中国の土地問題を追いかけ、ある談話から疑問を感じてただちに江蘇省へ飛び、調査を重ねてその企業が土地を違法占拠していることを暴露しました。2000世帯の農民が違法に移転を強いられ、住む家も失っていることが判明したのです。この報道により、この企業は処分されました。

それからもう1つ。中国大陸で鳥インフルエンザのウイルスを最初に発見したのはハルビンに住む36歳の女性の研究者です。彼女はこの鳥インフルエンザのワクチンなども開発し、効果が上がっているということです。また、雲南省の怒江という川の水力発電所建設が2004年に中止されました。ある女性教授で北京市海淀区の人民代表をしている方が、怒江の開発が生態環境に影響を及ぼし、住民に悪影響を与えると温家宝首相に手紙で訴えたからです。

以上、いくつかの例を挙げましたが、中国では多くの女性が経済や社会で影響力を発揮しています。中国社会の進歩が女性に力を発揮するチャンスを与えたことは素晴らしいことだと思います。ちなみに中国の経済界で大きな影響力を持つ2つのメディア、1つは「中国経営報」で、もう1つは「財経雑誌」ですが、この雑誌の編集長も女性です。

中国は農業大国でもあります。農村人口は総人口の70%以上。そして農業労働の60%は女性が担っています。中国では三農問題に対して非常に関心が高く、googleなどで「三農」というキーワードで検索すると440万件もヒットします。それが「女性の農民」で検索すると4万程度。ちなみに中国の企業家の20%は女性で、同じようにgoogleで「女性企業家」で検索するとヒット数は約1万件。しかし「企業家」で検索すると、168万もヒットするのです。中国では女性に関する報道は非常に少ない。メディアへの露出度はかなり低いのです。

メディアもこの問題を重視しています。女性に特化した報道をし、問題提起をし、女性企業家や経営者の能力開発、キャパシティ・ビルディングについて関心を寄せています。

新華社の女性記者にシュウさんという人がいます。2003年にパレスチナのガザ地区にある新華社の支局で人が足りないというので、彼女はすすんで手を挙げました。上司は20代の女性を、毎日爆撃があるような危険な地に派遣していいのだろうかと迷いました。男性は瞬発力はあるかもしれませんが、女性は持久力に長けています。私はガザのような場所では女性の持久力が生きるのではないかと提言したのです。彼女はガザで2年間過ごし、素晴らしい仕事をして帰ってきました。男性にない視点で仕事をした彼女は、新華社内部でも高い評価を受けています。視点を変えて物事を捉えることができるかということは、メディア人にとって重要なことなのです。

女性は昇進の機会が少なかったかもしれませんが、それには理由があったと思います。女性が働く際、より有利なポジションにいるケースも多いはずです。というのは、私は職場での不愉快を、ほとんど感じたことがないからです。

もちろん、草の根の女性の活路ということは考えなければなりません。中国では、これまで都市部で働く女性は、農村部で生きる女性に関心を払ってきませんでした。今は農村の問題を解決し、新しい農村を築いていくためには、農村部の女性問題の解決が不可欠であるという認識に至っています。また合作医療という共済医療の制度ができています。

冒頭で紹介した温家宝首相に直訴した女性が「メディアは女性の声に耳を傾けて欲しい」と言っていました。これまで中国の多くのメディアは農村の女性を弱者として扱っていました。この女性はこうした見方は間違っていると指摘しました。なぜなら、これまでは発言する機会さえ与えられていなかった、と彼女は言うのです。なぜ自分たちを弱者としてひと括りにするのかと。その一言で、私も目を開かされました。いわゆるエリートだけに向けられた発言や伝え方ではいけないのだということに気づかされました。中日韓の3カ国の女性はお互いに交流を進め、メディアにあまり出てこない、交流の場に出てこられない人たちがいる、というような問題こそ改善すべきだと思います。

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■質疑応答

≪会場≫ 日本でも育児休暇や短時間勤務、在宅勤務等々、会社を辞めないで済む制度がありますが、そういう制度を享受してしまうと、管理職への道が閉ざされてしまうというケースがたいへん多いんです。私の会社は外資系で、女性に対するあたたかい制度がたくさんあることで有名ですが、たとえばオーストラリアなどでは、管理職の仕事も短時間勤務の人が2人で1つのポジションを分け合うとか、そこまで進んでいます。しかし、日本ではやはり育児休暇や在宅勤務といったものを利用しない人だけが管理職になっているような気がします。最初の質問は、日本もオーストラリアのようなところまで踏み込んでいけるものかどうか、お聞かせください。
もう1つは、韓国では長男の嫁で4人の子どもを育てて、さらに社長というような方が、他にもたくさんいらっしゃる。長男の嫁が管理職になるというのが、どうして日本では難しいのか、韓国と日本はどこが違うのか、そのあたりの話をお聞かせください。

≪岩田≫ 質問いただいた方の会社の実情を把握しておりませんので、適切なお答えができるかどうかわかりませんが、やはりそれは評価の問題と非常に関係してくるのではないかと思います。社員の能力や成果を何で評価するかというときに、バイアスがあるんじゃないかと思いますね。
たとえばなんとなく、いつも残業していて、長時間労働をしている人が能力が高いとか、成果を出しているとか、そういう見方もあります。ですから、能力とか成果に対していかにバイアスのない評価ができるかということが問題であるように思います。それを乗り越えない限りは、やはり育児休業をとったり、その後子どものことで、しょっちゅう休んでいるという人の評価が低くて、そういったことが蓄積すると管理職にはなりにくいということがあると思います。ですからこの場合、評価者のための教育をしなければならないっていうことはありますね。私が資生堂に入社したときの最初の仕事がCSR部長で、小さな部で16人だったのですが、その中で育児時間(短時間勤務)をとっている人が3人、そして産休中の人が1人いました。私がそういう人も大歓迎と言ったら大勢集まってしまったのですが、たとえば、育児時間をとっている人は、普通の人よりも所定労働時間が2時間少ない。そして残業もしない、できないというわけですね。それでも、成果で評価をしようとしました。彼女は見えないところで、自宅でがんばって仕事をしているらしいっていうことは伝わってきました。業務の査定はABCで評価をするのですが、育児時間をとっていても、成果を出した人にはもっとも高いA評価をしました。ですから、客観性があって、透明性がある、そんな評価法が確立されなければいけないと思います。ワークシェアリングという1つの仕事を2人で分けるというのは、慣れればやれないことはないと思いますね。もう退職されたのですが、北欧のある国の外務省の局長はワークシェアリングをしていました。その方は課長の時代から、ある人と人事部の紹介でペアを組んでワークシェアリングをしていて、局長になってもワークシェアリングをしていました。ただ、現状から考えるとそういう形で管理職を務めるというのは、まだまだ距離があるかなという感じはします。

≪申氏≫  今、管理職を評価する基準というお話がありましたが、私は経営者として逆説的なことを申し上げたいと思います。会社の評価制度というのは誠実に働いて能力のある人の昇進のためでもあるわけですが、一方でリストラ、いわゆる構造調整ですね。競争社会においては評価というものが、人を切る役割も果たすわけです。会社は利益を最大限にあげなければならず、さらにすべての人が力を合わせて誰もが幸せにならなければいけないわけですが、今の評価基準ではまだよい答えは出ていません。模範解答に向かおうと努力はしていますが、どの国であっても「これが正解」というものはないと思います。昇進に値する人が同時に2人いるのだけれども、1人はさまざまな困難を克服して、有給休暇も取らず会社に尽くした。それにも関わらず、あるヒューマニズムによって能力はもう1人のほうが上だと判断された場合、それにともなう問題というのは、運がよいとか悪いということで解決できるものではありません。ですから、今後さらに研究して、深く国が補完して制度化する必要があると思います。
お答えはこのくらいにして、話は変わりますが、私が8人兄弟の長男の嫁です。それでいてなぜ外で仕事ができたのか。成功ということばを使うのは恥ずかしいのですが、まあ、頑張ってきたとでも言いましょうか。韓国では珍しいことではありません。私が結論として最後に申し上げたいのは、このような現代社会では、女性が外で働くということ自体が全世界、すべての国において一種の挑戦であるといってもいいでしょう。しかし、「だからこそ制度、法律で私を守ってほしい。足りない点を補って欲しい」と声をあげるくらいなら、最初から働くのはやめなさいと言いたいと思います。つまり、困難を克服したときに、人と同じ条件であっても自分の意志でそれを貫いて達成したときに、そしてスーパーウーマンになれたときに、真の幸福感や達成感を得られるのだと思います。国や社会の制度も大切ですが、まず自らが困難を克服すること。こう言うと、なんて無理なことを言うのだろうかと思うかもしれませんが、まず、すべてを成し遂げるということは、自分の意志による部分が大きいのです。その上で国が社会的に開かれた制度を作ってくれるのであれば、どんなに素晴らしいでしょうか。実際に、今はそういった社会に、国に向かっていると思います。

≪会場≫ 本日の論議の中でアジア地域において、女性のリーダーの存在がまだまだ少ないという現状がわかりました。女性の管理職が少ないというのは、社会的制約や環境の問題があるということは否めません。その一方で私たち女性が社会に対して積極的に役割を果たしていこうという意気込みとか、生き方といったものが、男性と同じかどうか、疑問に思ったりします。結果的に受け身的な生き方を、私たち女性はしてきたのではないだろうかと。それは長い歴史の中で、たぶんそのように刷り込まれてしまったということがあるのでしょう。今、中国では「社会の半分は女性に支えられている」という現状の中で、女性の管理職はおそらく日本よりはずっと多いと思います。その中で男性と同じように社会に積極的に役割を果たし、リーダーになっていきたいと考える女性は多いのではないでしょうか。

≪熊氏≫ 中国ではかつて、こういった内容の調査を行ったことがあります。そして、実際にはこのような願望、希望を持つ女性は30%にも満たないのではないかという結果が出ています。なぜかと申しますと、これは女性の特徴と関係があるのではないかと思います。これはまた中国の男女平等の政策が比較的に早い時期に打ち出されており、女性の社会参加が早く、しかもその機会が多かったということにも関係しているのではないかと思います。
つまり、多くの女性はだいたい仕事に満足しているという状況にあるのです。そして自分の仕事が非常に好きで、好きであるゆえに、仕事の中でどういうポジションにつくかということを、あまり気にしていないという人が多いようです。
しかし、一方で私は、もしも本当に自分は職場で何か抑圧されている、不正に扱われている、あるいは昇進したいと思うような人がもっといれば、そういった願望はもっと強くなると思います。しかし、私は女性の新聞記者の中でもこういった調査を行ったことがあるのですが、昇進したいという願望を持った女性は非常に少ないということがわかっています。これは中国のマスコミのトップレベルのリーダーには女性が少ないということも原因かもしれません。しかし、一部の女性というのは、急にとはいいませんが、我々のような政府が直接コントロールしいていないマスコミでは、女性は認められていて、ごく自然に抜擢されてトップにつくというのが現状です。ですから、私が知る限りでは、こういった願望を持っている女性というは、非常に少ないと思います。

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◆最後に◆

≪岩田 喜美枝≫  今日は中国と韓国のお話をお聞いて、似ている部分もありますが、やはり随分違うものだと思いました。そして1つの国でも時代とともにいろいろ変わっていくということだと思うので、社会は必ず変わるし、変えられるという思いを強く致しました。そして、何をモデルにして、何を参考にして変えていくかと言うことについては、科学技術なら実験室でできるのでしょうが、社会的な問題というものは自国で実験をするわけにはいきませんから、他国の事例を参考にするということは本当に有効であると思います。そういう意味では今日のような機会はまたとない機会でありましたし、こういった場が来年以降も継続していくことを切実に願っております。

≪申 受娟≫  長時間ご静聴いただきましたことを本当に感謝しております。朝早くからこの時間まで、一杯の会場、そしてみなさんの目の輝きから熱意を感じることができました。私たちが共に集まって話し合うこと自体が、まさに成功だといえます。1つの考えが常に歴史を変えます。拍手をもってみなさんに勇気を与えましょう。また、本日は園田天光光先生、またその隣には中国からいらっしゃった王効賢先生、尊敬すべき大先輩が1つの歴史の場を見守ってくださいました。みなさん、今、この瞬間がアジアの働く女性にとって非常に勇気を与えられる場になると思います。働く女性は美しい、ということを最後にメッセージとしてみなさんにお伝えします。

≪熊 蕾≫  私はお2人の大先輩が、ここで1日、長時間お座りいただいていたことに対して非常に感動しております。彼女たちによって開かれ、私たち3カ国の女性が歩んできた道を振り返ると、世界は変化し、そしてよい方向に向かっていることがわかると思います。もちろん、紆余曲折はあると思いますが、全体的に未来は明るい方向に向かっていると。そして歴史は進んでいます。歴史を動かす男性もいるし、女性もいる。そして私たちの世界がより美しくなることを信じています。

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